- 厚労省・中医協の公的データが示す勤務医の年収全体像(2026年最新)
- 診療科別年収格差を生む3つの構造的要因(診療報酬・医師不足・時間外)
- 施設種別(大学病院・市中病院・診療所)の年収差
- 年収を上げるための診療科×施設の組み合わせ方
「整形外科の先生は年収が高い」「麻酔科は引く手あまた」――そうした話は耳にするが、なぜそうなのかを一次資料から説明できる人は少ない。巷に溢れる「診療科別年収ランキング」の多くは民間企業のアンケート結果に依拠している。本記事では厚生労働省・中央社会保険医療協議会(中医協)の公的統計を軸に、診療科によって年収が変わる構造的な理由を解き明かす。
2026年の勤務医年収――第25回医療経済実態調査が示す全体像
令和7年(2025年)11月26日、中医協から「第25回医療経済実態調査(医療機関等調査)」の結果が公表された。診療報酬改定のたびに実施される、医師の給与水準を把握するうえで最も信頼性の高い公的統計だ。
令和5年度(前年)の1,481万円と比べ+4万円。一般診療所の医師(個人除く)は前年度比+45万円(+4.3%)の増加だ。令和6年度診療報酬改定で新設された「外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ・Ⅱ)」「入院ベースアップ評価料」が、診療所・中小病院の処遇改善を後押しした結果とみられる(厚労省、令和6年度診療報酬改定)。
診療科別年収格差を生む3つの構造的要因
厚労省・中医協の公的資料を読み解くと、診療科別の年収差には明確な構造的理由が3つある。アンケート数値だけ見ていては、この仕組みは理解できない。
① 診療報酬の手技料・手術料の高さ(根拠:中医協 診療報酬点数表)
病院の診療報酬収入を大きく左右するのは、手術料・処置料の点数だ。中医協が公示する「医科診療報酬点数表(令和6年度改定版)」では、経皮的冠動脈形成術(PCI)、開頭術、大動脈人工血管置換術、脊椎固定術など、外科系・麻酔科系の処置に高い点数が付されている。
手技料の高い診療科を担う医師は、それだけ病院収益の柱となる。収益への貢献度が高い医師を確保・引き留めるために、病院側は給与水準を引き上げる。これが診療報酬の構造が年収差を生む基本メカニズムだ。麻酔科医は手術件数に応じて麻酔管理料が算定される仕組みのため、手術室の稼働率が上がるほど病院収益と医師の処遇が連動しやすい。
② 全国的な医師不足による「希少性プレミアム」(根拠:厚労省 医師偏在対策)
厚生労働省の医師偏在対策(令和7年9月時点)では、都道府県が策定する医師確保計画において、産婦人科・麻酔科・救急科・脳神経外科などが全国的な不足診療科として認識されている。
- 産婦人科:分娩を扱う施設数の減少が続き、医師の確保が全国的な課題
- 麻酔科:外科手術の増加に対し専門医数が追いつかず、採用競争が激化
- 救急科:二次・三次救急の輪番体制維持が困難な地域が続出
- 脳神経外科:高度専門性と地方での採用難が重なる
供給が不足する診療科では、採用競争力を維持するために医療機関が給与水準を引き上げざるを得ない。これが市場価格として年収に反映される「希少性プレミアム」だ。この傾向は地方の医療機関ほど顕著で、都市部と地方で同じ診療科でも大きな差が生まれる要因になっている。
③ 時間外労働と当直料(根拠:厚労省 医師の働き方改革、2024年4月施行)
2024年4月に施行された「医師の働き方改革」では、一般の病院勤務医には年960時間(A水準)の時間外上限が適用される。ただし、地域の救急・高度急性期医療を担う医療機関が取得する「連携B水準・B水準」では年1,860時間まで認められる(厚労省 医師の働き方改革特設サイト)。
連携B・B水準が適用されやすいのは、外科系・産婦人科・救急科・麻酔科など手術・救急対応が多い診療科だ。時間外が多いということは時間外割増賃金・当直料も多いことを意味し、基本給に加えた実質年収を押し上げる。勤務時間が長い診療科ほど「残業代込みの年収」が高く見えるのは、この仕組みによる。
診療科別「年収ポジション」の構造図
上記3要因(診療報酬単価・医師不足・時間外労働)の重なり具合を公的資料から整理すると、以下のような構造が見える。
| グループ | 代表的な診療科 | 年収が高くなる主な構造的理由 |
|---|---|---|
| 高年収グループ | 麻酔科・整形外科・心臓血管外科・脳神経外科 | 手技料高 × 供給不足 × 時間外の三要因が重なる |
| 高〜標準グループ | 産婦人科・循環器内科・消化器外科・救急科 | 手技料高または供給不足 + 時間外が加わる |
| 標準グループ | 消化器内科・放射線科・眼科(術者) | 手技あり。不足感は診療科・地域によって差がある |
| 標準〜安定グループ | 一般内科・精神科・皮膚科・小児科 | 手技料は低め。需要は安定しており長期的なキャリアを築きやすい |
施設種別の年収差――大学病院 vs 市中病院 vs 診療所
第25回医療経済実態調査では施設種別のデータも示されている。医療法人が運営する一般病院の医師は、公的・国公立病院と比べて年収水準が高い傾向があり、診療所医師の年収が令和6年度に前年比+4.3%と大きく伸びたことが確認されている(中医協、令和7年11月26日公表)。
大学病院は高度専門性とキャリア形成の場として評価される一方、勤務医の基本年収が市中病院より低くなるケースが多い。大学病院では当直・オンコール対応の負担に対し、待遇が必ずしも連動しない構造がある。医師の働き方改革の施行後は、この差が診療体制の見直しによって縮まりつつある施設と、依然として格差が残る施設に分かれてきている。
診療所(クリニック)勤務は、当直・夜間呼び出しがないケースが多く、勤務時間あたりの生産性が高い。令和6年度のベースアップ評価料が診療所の処遇改善を後押ししており、2026年現在、外来系診療所での医師採用単価は高い水準が続いている。
年収を上げるための診療科×施設の選び方
診療科の「構造的ポジション」は変えられないが、同じ診療科でも施設の選択で年収は200万〜400万円変わるというのが実態だ。以下の観点で現職・転職先を評価することが年収アップへの近道になる。
- 手術室の稼働率・件数:外科系・麻酔科は手術件数が年収の直接変数。件数の多い施設を選ぶことが重要
- B水準・連携B水準の指定有無:指定あり=時間外割増の法的根拠が明確で、当直手当も整備されているケースが多い
- 開設者の種別:医療法人 > 公的 > 国公立の傾向があるが、施設規模・地域で逆転することもある
- 地域(都市部 vs 地方):供給不足の診療科は地方ほど採用プレミアムが高くなりやすい
- アルバイト・副業の可否:本院での制限がない施設を選ぶことで副収入の余地が確保される
3つの構造要因(診療報酬・希少性・時間外)を自分の診療科と施設の条件で掛け合わせることで、年収の伸びしろが見えてくる。医師転職アンテナでは求人データから施設ごとの条件を確認できる。
