先生は、ご自身の年収が勤務医全体のどの位置にあるかを把握されていますか。中央社会保険医療協議会(中医協)が2025年11月に公表した「第25回医療経済実態調査」によると、一般病院に勤務する常勤医師の平均年収(給料年額と賞与の合計)は1,484万6千円。前回調査からの伸び率はわずか0.2%で、物価上昇下でほぼ横ばいです。同じ職場で待っていても年収2,000万円には近づかない——これが最新データの示す現実です。
一方で、年収2,000万円は一握りの医師だけのものではありません。医師転職アンテナに掲載中の常勤求人10,079件のうち、37.7%にあたる3,797件が提示年収の上限2,000万円以上です(2026年7月時点)。本記事では、公的統計と自社求人データを突き合わせ、2,000万円に到達する働き方を4つのルートに分解します。
勤務医の平均は1,484.6万円——「どこで働くか」で287万円の差
注目すべきは平均値そのものより、開設者(経営主体)による差です。同じ病院勤務医でも、医療法人立の病院では平均1,576.7万円、国立系では1,290.0万円。勤務先の経営主体が違うだけで約287万円の開きがあります。
| 勤務先・職位 | 平均給料年額+賞与(令和6年度) |
|---|---|
| 一般病院・医師(医療法人) | 1,576.7万円 |
| 一般病院・医師(公立) | 1,550.7万円 |
| 一般病院・医師(全体) | 1,484.6万円 |
| 一般病院・医師(国立) | 1,290.0万円 |
| 病院長(全体) | 2,587.0万円 |
| 一般診療所・院長(医療法人) | 2,898.0万円 |
(出典: 中医協「第25回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告の概要」。金額は常勤職員1人あたりの平均給料年(度)額と賞与の合計)
現在の年収が1,484.6万円を下回っているなら、まず市場平均まで引き上げる交渉余地があります。すでに平均を超えている先生にとっても、医療法人平均の1,576.7万円、病院長の2,587.0万円という数字は、勤務医のまま職場と職位を選び直すことで到達できる水準の目安になります。では、実際の求人市場で2,000万円はどれほど現実的なのか。次に自社データで確かめます。
求人の37.7%が上限2,000万円以上——ただし「下限保証」は7.1%
診療科別に見ると、2,000万円以上を提示する求人がもっとも多いのは一般内科の1,180件。次いで訪問診療の750件、一般外科の566件と続きます。特別な手技を持つ医師だけの世界ではなく、内科系・総合診療系の医師にこそ門戸が広いのが実態です。
| 診療科 | 上限2,000万円以上の求人件数 |
|---|---|
| 一般内科 | 1,180件 |
| 訪問診療 | 750件 |
| 一般外科 | 566件 |
| 消化器内科 | 430件 |
| 整形外科 | 420件 |
(ishi-ten.com掲載求人データ、2026年7月時点。1求人が複数診療科を募集する場合は各科で集計)
地域差も明確です。三大都市圏(東京・神奈川・埼玉・千葉・大阪・京都・兵庫・愛知)では常勤求人の35.6%が上限2,000万円以上なのに対し、それ以外の地域では49.5%。医師不足地域ほど、高年収の提示で医師を確保しようとする力学が働いています。また、当直条件が判明している求人に限れば、2,000万円以上求人の64.3%は「当直なし」です。高年収は激務の対価、という図式はすでに崩れています。
では、この3,797件はどのような働き方で構成されているのか。到達ルートを4つに分解します。
年収2,000万円に到達する4つの働き方
ルート1: 医療法人・民間病院の基幹ポストに移る
医療経済実態調査が示すとおり、医師の平均年収は国立1,290.0万円に対し医療法人1,576.7万円。給与テーブルが公務員型で固定されがちな国公立に対し、民間は診療実績や担う役割に応じた設定が可能です。国公立の総合病院から民間の基幹病院へ移るだけで、同じ診療内容でも200〜300万円の上積みが現実的に狙えます。
ルート2: 医師不足地域で働く
前述のとおり、三大都市圏以外では常勤求人の49.5%が上限2,000万円以上と、都市圏の35.6%を大きく上回ります。都市部の人気病院で1,400万円か、地方の中核病院で2,000万円か——通勤・家族・専門医資格の更新条件と合わせて天秤にかける価値のある差です。
ルート3: 訪問診療・在宅医療を選ぶ
2,000万円以上求人の診療科別で2位に入ったのが訪問診療(750件)です。高齢化で需要が拡大し続ける一方で担い手が不足しており、内科系の経験があれば専門を問わず参入しやすい領域です。当直がない代わりにオンコール対応が条件になるケースが多いため、オンコールの頻度と実際の呼び出し回数は必ず確認してください。なお、美容皮膚科・美容外科の求人も合計355件と一定数ありますが、保険診療からの転科はキャリアの不可逆性が高く、慎重な判断が必要です。
ルート4: 院長・分院長ポストを狙う
一般診療所の院長(医療法人)の平均は2,898.0万円、病院長は2,587.0万円。開業リスクを取らずに2,500万円超を狙える数少ないルートが、いわゆる「雇われ院長」です。在宅クリニックや透析クリニックの分院長求人は40代からの応募が現実的で、マネジメント経験を必須としないケースも少なくありません。
どのルートにも共通する落とし穴が一つあります。「足りない分は外勤バイトで積む」という発想です。最後にその制約を確認します。
「バイトの積み増し」には法律の上限がある
従来、勤務医が年収を積み増す定番は外勤バイトでした。しかし厚生労働省の時間外労働上限規制により、主たる勤務先とバイト先の労働時間は通算で管理され、「時間を売って年収を作る」戦略には明確な天井が設けられました。年960時間は月平均80時間。常勤先の残業と当直だけで枠の大半を使っている先生も多いはずです。
だからこそ、これからの年収戦略の本筋は労働時間を増やすことではなく、時間単価の高い職場・職位へ移ることです。本記事で見た4つのルートは、いずれも労働時間を増やさずに年収を引き上げる選択肢です。
まとめ——2,000万円への距離を測る5つのチェック
年収2,000万円は、求人市場の実数で見れば常勤求人の3分の1以上が射程に入れる水準です。ただし到達には、平均との差がどこで生まれているかを知り、職場・地域・職位を意図的に選ぶ必要があります。転職活動を始める前に、次の5点を確認してください。
- 現在の年収と勤務医平均1,484.6万円との差を把握した
- 勤務先の開設者区分(国公立か医療法人か)による給与構造の違いを理解した
- 自分の診療科・希望地域で上限2,000万円以上の求人が何件あるか確認した
- 当直・オンコール・時間外の実働が上限規制(副業・兼業先と通算)に収まるか試算した
- 求人票の「上限」ではなく「下限」と提示条件で交渉する準備をした
