医師が知っておくべき36協定:時間外労働の法的ルールと転職先確認のポイント

💡 この記事の3つの要点:
  • 施行日:2024年4月1日 — 勤務医への時間外労働上限規制が全面適用
  • 適用対象:雇用されているすべての勤務医(研修医・非常勤医も含む)
  • 罰則:上限超過を招いた医療機関の管理者に「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」(労働基準法第119条)

「36協定」とは、労働基準法第36条に基づく労使協定の略称だ。この協定を締結・届出していない医療機関が医師を時間外・休日労働させた場合、それ自体が労働基準法違反となる。2024年4月1日の改正施行により、医師にも本格的な上限規制が適用され、36協定は単なる手続き書類から「先生の労働条件を守る法的盾」へと変わった。転職先を選ぶ際に36協定の内容を確認することは、もはや必須のチェック項目だ。

36協定とは:医師にとっての法的基礎知識

締結なしに残業をさせることは違法

労働基準法では、法定労働時間を1日8時間・週40時間と定めており、これを超えて働かせるには労使が「36協定」を締結し、所轄の労働基準監督署に届け出ることが必要だ(同法第36条)。協定なしに残業を命じた場合、医療機関の使用者は同法第119条により6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金の対象となる。

2024年以前、医師には労働基準法の時間外労働上限規制が適用猶予されていた(いわゆる「医師の5年猶予」)。2024年4月1日をもってこの猶予が終了し、雇用されているすべての勤務医に上限規制が正式に適用されるようになった。

⚠️ 注意:2023年8月時点の調査では、勤務医と36協定を締結・届出している医療機関は全体の約75%にとどまっていた。残りの約25%の医療機関では、先生が残業をしていた場合、それ自体が法律違反の状態だった可能性がある。転職前に必ず締結状況を確認してほしい。

医師の36協定が一般労働者と異なる点

一般労働者の場合、特別条項付き36協定を締結した場合でも時間外労働の上限は年720時間・月100時間未満だ。一方、医師には医療機関の機能・役割に応じた「特定医師」としての区分が設けられており、水準によって上限が異なる。

A・B・C水準別の時間外上限:自分の職場はどれに該当するか

医師の時間外労働上限規制は、医療機関の指定水準によって以下の区分に分かれる。先生が今の職場・転職先がどの水準に該当するかを把握しておくことが重要だ。

水準対象年間上限月間上限終了予定
A水準(原則)原則すべての勤務医960時間100時間未満廃止予定なし
B水準(地域医療確保暫定特例)救急・分娩等、地域医療に不可欠な医療機関1,860時間100時間未満2035年度末を目標に廃止
連携B水準他院の医師を受け入れて地域医療を支える機関1,860時間100時間未満2035年度末を目標に廃止
C-1水準(集中的技能向上)専門研修等で技能習得中の医師1,860時間100時間未満廃止予定なし
C-2水準(高度特定技能育成)高度技能習得のための集中的研修医師1,860時間100時間未満廃止予定なし
💡 ポイント:B水準・連携B水準は都道府県の指定が必要なうえ、2035年度末廃止を目標とした「暫定措置」だ。現在B水準の医療機関でも、今後は段階的にA水準(年960時間)への移行が求められる。「B水準だから長時間勤務OK」という環境は永続しない点を念頭に置いてほしい。

特例水準に義務付けられる追加的健康確保措置

B・連携B・C水準が適用される医療機関では、A水準医療機関には課されない追加の健康確保措置が義務化されている。

  • 面接指導(義務):月の時間外・休日労働が100時間以上となることが見込まれる医師全員に、医師による面接指導を実施
  • 就業上の措置(義務):面接指導の結果に基づき、労働時間の短縮・宿直回数の削減など必要な措置を講じる
  • 勤務間インターバル(義務):連続勤務時間制限(最大28時間)と勤務間9時間のインターバル確保(A水準は努力義務)
  • 代償休息(義務):インターバルが確保できなかった場合、代償として休息を付与する

違反時の罰則・健康確保措置の義務と医師の権利

罰則の対象は「医療機関の管理者」

36協定の上限を超えた時間外労働をさせた場合、罰則の対象となるのは医療機関の使用者(管理者・病院長)だ。先生個人が刑事罰を問われるわけではないが、違法状態の職場で働き続けることは先生の健康リスクに直結する。

罰則規定(労働基準法第119条)
6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金
36協定の締結・届出なしに時間外労働をさせた場合、または定めた上限を超えさせた場合に医療機関の管理者に適用される。

先生が取れる法的アクション

勤務先の36協定違反を確認した場合、先生には以下の手段がある。

  • 労働基準監督署への申告:匿名での申告も可能。申告を理由とした不利益取扱いは労働基準法第104条で禁止されている
  • 都道府県医療勤務環境改善支援センターへの相談:各都道府県が設置する無料相談窓口。医療機関への改善指導につながる場合がある
  • 未払い残業代の請求:36協定がない状態での時間外労働に対する割増賃金(25%以上)の請求権が発生する。時効は3年

非常勤・副業の労働時間も通算される:バイト医師が知るべきルール

先生が複数の医療機関で勤務している場合(常勤+非常勤アルバイト、または掛け持ち勤務)、労働基準法第38条によりすべての事業場での労働時間は通算される。これは医師の時間外上限規制においても明確に適用される。

⚠️ 注意:A水準(年960時間)の常勤先で年800時間の時間外労働をしている場合、非常勤アルバイト先で追加できる時間外労働の上限は「年160時間」となる。上限を超えた場合、主たる常勤先の医療機関が規制違反となる。常勤先の人事・労務担当者に通算管理状況を必ず確認してほしい。

厚生労働省は令和7年1月(2025年1月)に医師の時間外労働に関するQ&Aを更新し、副業・兼業の労働時間通算に関する最新の解釈を整理している。頻繁なバイトを続けている先生は、この機会に自身の通算時間を把握しておきたい。

まとめ:転職前に36協定で確認すべき5つのポイント

36協定は2024年4月以降、「先生の労働時間を法的に保護するルール」として機能するようになった。転職先を選ぶ際は、以下を必ず確認しよう。

  • 36協定が締結・届出されているか(未届出の医療機関での残業は即違法)
  • 病院のA水準・B水準・C水準の区分と、過去1年間の時間外労働の実績値
  • B水準の場合、2035年廃止に向けた時間短縮ロードマップがあるか
  • 月100時間超が見込まれる場合の面接指導・勤務間インターバルが機能しているか
  • 非常勤・アルバイトを掛け持ちする場合の通算時間管理の体制が整っているか

法律の知識は先生を守る武器だ。面接時に36協定の内容を確認することは「難しいことを言う医師」ではなく、自分の働く環境を冷静に見極めるプロフェッショナルの姿勢だ。転職エージェントを活用すれば、こうした情報を事前に収集し、条件交渉まで一貫してサポートしてもらうことができる。

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